先日、スマホの設定画面で30分以上迷子になった。
アップデートのたびにメニューの配置が変わる。「あれ、ここじゃなかったっけ」と思いながら画面をスクロールし、見つからなくて、また最初から探し直す。若いころならこういう変化が面白かったはずなのに、いつのまにか「またか」という気持ちが先に来るようになっていた。
正直に言えば、新しいことへの億劫さが年々増している。それは自分だけじゃないと思う。
ただ、ある日気づいてしまった。「今のままでいい」が口癖になったとき、少しずつ未来から遠ざかっているのかもしれない、と。
技術の話をしたいわけじゃない。変化の波に、自分の足で立ち続けていられるかどうか——そういう話をしたい。
「歳だから無理」は、本当か
大人の脳は「慣れた道」を選ぼうとする
新しいことへの抵抗感が増すのは、怠惰でも意志の弱さでもない。脳の仕組みとして、慣れた行動ほど処理が楽にできるようになっている。初めてのことにはエネルギーがいる。だから「しんどい」と感じる。
スマホの画面が変わるたびにため息が出るのも、新しいアプリを開く前から「難しそう」と身構えてしまうのも、脳が効率を選んでいるだけだ。「歳のせい」というより「慣れの力」がそうさせている、と考えるほうが正確に近い気がする。
脳は、何歳になっても書き換えられる
「神経可塑性」という概念がある。聞きなれない言葉だけど、意味はシンプルで、脳は新しい経験や学習によって、何歳になってもそのつながり方を変えられる、という性質のことを指している。
記憶の定着が20代より時間がかかることはある。それは事実だ。でも「できない」ことと「時間がかかる」ことは違う。問題は能力の限界より、「やろうとするかどうか」の選択にある、と私は思っている。
私がChatGPTを初めて使った日
「自分には関係ない」と思っていた
正直に書く。AIが話題になり始めたころ、「若い人や専門家が使うもの」だと決めつけていた。
ニュースで見るたびに「へえ、そうか」で終わって、試してみようという気にもならなかった。自分の日常とは別の話だと思っていた。
変わったのは、職場の後輩がさらっと「このツール使ったらメールの下書きが一瞬でできた」と教えてくれたときだ。そのとき初めて、「もしかして自分でも使えるのかも」という気持ちが湧いた。
「こんにちは」から始めた
半信半疑でChatGPTを開いた。何を入力すればいいかもわからなくて、とりあえず「こんにちは」と打った。
返ってきた言葉に、妙な感動があった。
「便利」とか「すごい」より先に来たのは、「これ、話し相手になるな」という感覚だった。それからは少しずつ使い方を試して、文章の下書きをしてもらったり、調べものの入口として使ったりするようになった。
最初の壁は「触れること」そのものだった。一度触れてしまうと、恐怖は半分以下になる。「自分には関係ない」と思っていたものが、少しずつ「自分の道具」になっていく感覚は、やってみた人にしかわからないかもしれない。
技術についていくことは、「技術」の話じゃない
本質は、好奇心を手放さないこと
新しいアプリの使い方を覚えることも、AIを試してみることも、突き詰めると「スキル習得」の話じゃないと思っている。
根っこにあるのは、「知らないことに対して、扉を開けようとするかどうか」だ。
子どものころを思い出してほしい。知らないものに出会うたびに「これ何だろう」と感じていたあの感覚が、好奇心の正体だ。歳を重ねると、驚きより安心を選ぶことが増える。それ自体は悪くない。ただ、意識しないままでいると、「驚く機会」が少しずつ減って、世界が狭くなっていくような気がする。
好奇心は才能じゃない。使い続けることで保てる、習慣みたいなものだと思っている。
「わからない」は入口だ
「わからない」という状態を、多くの人は不快に感じる。解決できていない、知識が足りない、それが恥ずかしかったり、焦りを生んだりする。
でも見方を変えると、「わからない」は「まだ知ることができる余地がある」というサインでもある。
完璧に理解してからじゃないと動けない人より、「とりあえず触れてみよう」と動ける人のほうが、変化の速い今の時代には結果的に強い。最初は何もわからなくていい。「わからない」に向き合い続けることをやめないことのほうが、はるかに大切だ。
変化についていける人の、3つの小さな習慣
大きく変わろうとしなくていい。次の三つだけ、意識してみてほしい。
① とりあえず触ってみる、を1日1回
新しいアプリを起動してみる。ニュースで名前を見かけたサービスを検索してみる。それだけでいい。「新しいもの=怖い」が、少しずつ「新しいもの=ちょっと面白そう」に変わっていく。
② 「わからない」をそのままにしない——5分だけ調べる
「わからなかったけど、まあいいか」で終わらせないことが大事だ。完全に理解しなくていい。5分だけ検索する、動画を見てみる、ChatGPTに「これってどういうこと?」と聞いてみる。それだけで十分だ。わからないことをそのままにし続けると、その周辺まで「自分には関係ない領域」になっていく。
③ 若い世代と「教わる関係」を作る
これが一番難しくて、おそらく一番効果がある。
職場の20代の後輩に「あのアプリの使い方、教えてもらえる?」と聞いたとき、想像より喜んで教えてくれた。その後から、彼女が自分から話しかけてくれることが増えた。技術を学びながら、世代を超えた関係ができた。思っていた以上に、豊かな経験だった。
未来は、今日の選択でできている
10年後の自分は、今日何を選んだか
変化に乗り続けた人と、乗るのをやめた人の差が出るのは、今日ではない。3年後、5年後、10年後だ。
「今のままでもなんとかなる」は正しいかもしれない。でも10年後の自分が今日を振り返ったとき、何を思うか。変化のたびに「また置いていかれた」と感じるか、「また新しいことが始まった」と感じるか——それは今日の姿勢の積み重ねで決まる。
始めた日が、一番早い日
「もっと早く始めていれば」という後悔は、誰でも持っている。
でも今日より早い日は、もう来ない。
50代でプログラミングを始めた人がいる。60代でSNSを始めた人がいる。70代でYouTubeを始めた人がいる。共通しているのは「遅いから無理」ではなく「今日からやってみよう」と選んだことだ。
始めた日が、その人にとって一番早い日になる。
まとめ——今日、あなたにできること
変化についていくことは、スキルの問題じゃない。姿勢の問題だ。
「わからない」を放置しない。「新しい」に怯えない。「教わる」ことを恥じない。それだけで、10年後の景色はずいぶん変わる。
今日やってほしいのは、ひとつだけ。
スマホに入っているけど一度も開いたことのないアプリを、5分だけ触ってみること。それだけでいい。
未来は、今日の小さな選択の積み重ねでできている。



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